エレクトラグライドももう3回目。フジロック同様、音楽ファンの間ではすっかり定着したと言えるのではないでしょうか?
今年はなんと、クラフトワークが登場。ロッキン・オンの告知を見た時は、我が目を疑いましたなぁ。
<DJ ステージ>
21:00 Tim Deluxe
23:00 X-Press2
02:00 Sasha
04:30 Andrew Weatherall
<LIVEステージ>
23:30 Kraftwerk
02:00 Squarepusher
04:00 Y.Sunahara
会場は例年通りの構成。幕張メッセの広いフロアをDJステージとLIVEステージに分け、両ブロックの間に飲食、物販ブースが多数出店し、フジロックに近い雰囲気です。
Tim
Deluxeのアッパーなプレイを聴きながら、ビールと豚串で腹ごしらえして、早めにLIVEステージへ。かなり前の位置をキープしたので、クラフトワークへの距離は20mくらいか。
ま、私はクラフトワークのマニアでは全然ないので、「珍獣見たさ(笑)」というのが正直な気持ちでした。「ComputerWotld」とか「We
are The
Robots」とか、70年代ならともかく、クラフトワークが夢想していた未来を現実は完全に超えてしまっているわけで、「クラフトワーク=ゲルマンの生きる化石」というのが私のイメージだったのです。
演奏前のステージには幕がひかれており、残念ながらどんなセッティングなのかは分からない。周囲の観客達からは、「本人達は来てないんじゃないか?」とか「ドイツから中継するんじゃないか?」とか、かなり妄想系の会話(笑)が聞こえてきます。私も「幕が上がるとロボットしかいない」のを期待していたので、他人のことは言えませんが(笑)。そんな期待をさせるバンドなんて、世界中にクラフトワークしかいないわな。
そして、ついにライブ・スタート。幕が上がると、ステージには4人分のスタンドと1台ずつのノートパソコンのみ。登場したドイツ人のオッサン4人は、黒のズボンにタートルネックといういかにも「近未来」(笑)な出で立ち。しかし、これがなぜか絵になるのだ。
サウンド&レコーディング・マガジンに載っていた98年の来日公演レポートを読み返すと、前回は、大量の機材ラックをV字型にセッティングし、その前に4人分のスタンドという大がかりなステージだったのですが、今回はなんと1人1台のノートパソコンのみ。一番左側のラルフ・ヒュッターのスタンドには、鍵盤もセットされていたようでした。彼はたまにシンセのメロディーを手弾きしたり、ボーカルをとっていたのですが、他の3人は「ライブ的」な動きは全くなし。
真ん中の2人は、パソコンを操作しながら、ラルフ・ヒュッターとアイ・コンタクトをとっていたので、何かリアルタイムの処理をしていたのではないかと思いますが、右端のフローリアン・シュナイダーは、全く動かず(笑)。あの人は1時間半何をしてのだろうか?
曲目は代表曲は全部演ったと言っていいでしょう。86年の“Electric
Cafe”以降に発表した新曲は“EXPO2000”だけだから、演奏した曲の大半は20年以上前の曲ということになる。私は「懐かしの曲」とか「定番曲」とかで盛り上がるライブは好きではないのですが、クラフトワークのサウンドと映像のクオリティーには圧倒されてしまいました。例えば、ポール・マッカートニーがビートルズの曲を歌う姿に「進歩がない」と文句をつけても意味がないのと同様、クラフトワークが20年前と同じサウンドを出すことに文句をつけても全く無意味なのだ。
もちろん、彼らも裏側では進歩がないわけではない。今回の音は、Windows版のCubase
SXで全て出しているのだそうだ。かつては、膨大な機材をライブに持ち出していた彼らですが、今回はシンセ音源もエフェクトも全てPC内で完結。そのテクノロジーの進歩にも驚くが、最新のテクノロジーを駆使して出てくる音が、20年前と変わらないという事実にも驚く。しかし、そうでなければクラフトワークが存在する意味がない。変わらないことがプラスになる音楽もあるのだなぁ。
大音響で鳴り響くアナログ・シンセ音の心地良さはもちろん、音楽と完全リンクで繰り広げられる映像も凄かった。基本的にはチープな映像なんですよね。例えば、「Man Machine」という文字が曲の歌詞に合わせていくつも流れてくるとか、“Trans Europe Express”ではそのまんまの列車の映像だったり。CG系の映像もリアルなシミュレーションではなく、ファミコン系(笑)。しかし、それが逆に普遍性を生むのだろう。アンダーワールド&TOMATOとは違った方法論での、映像と音楽のコラボレーションの理想型を観たように思いました。ボコーダーで歌われる“Computer World”の歌詞に合わせて、スクリーンに飛び込んでくる「Computer World」の文字。映像だけなら全く間抜けな光景だと思いますが、音楽とシンクロすると不思議な重みが生まれてくるのです。あれがドイツの様式美、伝統の重みなのか・・・。
ステージ上で微動だにしない(笑)メンバーに比べ、観客は意外なほどの盛り上がり。特に“Pocket
Calclator(電卓)”では、「ボクは音楽家」という日本語詞に合わせて大合唱。ダイブが起きるのでは(笑)、というくらいの盛り上がりでした。
本編のラストは確か“Trans Europe
Express”。ここで、一旦ステージには幕が引かれました。98年の来日公演では、アンコールの最初はメンバーは登場せず、ロボットがステージの置かれていて、観客は大喜び(笑)だったそうなので、期待していたのですが、今回は残念ながら本人達が登場。まぁ、それでガッカリするのもどうかとは思うが(笑)。
クラフトワーク終了後、DJステージに戻り、しばらく休憩。X-Press2は、MCが客を煽りまくり、かなりイケイケなプレイでした。
そして、スクエアプッシャーのライブ。あまり期待はしていなかったのですが、これが凄かった。音源はクラフトワーク同様、ノートパソコンのようですが、エフェクト処理が壮絶。今回はなんとベースを弾く場面があり、「おお、ついにあの超絶ベースが聴けるのか!?」と期待しましたが、ベースにも訳の分からんエフェクトがかかっていて、全く原形をとどめていない別の意味で超絶なベース音。多分、フィルターを発振させているのではないかと思うんだけど、ベースをちょっと弾いただけで「ブチブチドカドカドーン!」とか、トンデモない音がする(笑)。リズムを鳴らさなくても、1人ドリルンベース状態で十分いける(笑)。
2001年のフジロックに比べると格段に面白かったです。映像なし、音響だけで盛り上げるという、テクノ系ライブの新たな可能性を見たって感じでしょうか。
LIVEステージの最後は元電気グルーヴのまりん。いや、まりんじゃなくて、砂原良徳と言わなきゃ失礼なのか? 2001年のフジロックを急病でキャンセルしたため、今回がソロになっての初ライブのはず。
ステージセットは、中央後ろに映像用スクリーン、ステージ両側にパソコン用の液晶ディスプレイとミキサー(多分)が乗ったスタンドが左右対称に2台。クラフトワークを意識したものと思われます。
まりんは左サイドで、こちらにはシンセ数台もセッティングし、たまに手弾きもしていましたが、主にミキサーのEQとか上物のエフェクトをコントロールしていたようです。右サイドのサポートメンバー(誰かは謎)は、リズムにディレイやリバーブをかけるという分業体制がとられていました。
クラフトワーク同様、まりんのセットも映像と完全リンクで、曲の構成も決まったいたものと思われます。しかーし、ステージ上での存在感や、映像と音楽の一体感が生み出す快感は、クラフトワークには遠く及ばない。クラフトワークとスクエアプッシャーというテクノ界の極北のようなライブ2本の後では、どうにも分が悪い。
というか、まりんの音楽性自体がライブ向きじゃないのかも? ライブならではのカタルシスを生み出せないのであれば、ライブで演る意味がないよね。
まりんのライブ終了後は、すでに朝5時。1時間くらい寝た後、DJステージのアンディ・ウェザオールへ。イメージ的にはアブストラクトでダビーな感じを予想していたのですが、全然違う。4つ打ちテクノで盛り上げまくり。「アンディ・ウェザオールって、こんな人だったっけ?」と疑問を感じつつ、朝7時まで踊ってしまいました。
WIREでは必ず寝てしまう私ですが、今年もエレグラはほぼ徹夜で楽しんだのでした。