ディスク・レビュー 98年10月


artist

Prince

title

Crystal Ball

label

NPG records (1998)

 プリンスの未発表曲集3枚+新作1枚のCD4枚組。インターネット通販という販売方法が話題になりましたが、私は店頭発売された日本盤をゲット。ただし、インターネット通販のものは、さらにインスト集がついて5枚組(!)らしい。
 これはね、イイです。年代的には80年代後半(“Parade”の頃)から90年代のつい最近までの未発表曲なので、ピンからキリまで収録されているんですが、80年代の絶頂期のプリンスが聴けるんだから、マニアにはたまらない。私はブートレッグ盤も結構持っているんで、聴いたことのある曲もかなり含まれていましたが、クリアな音質の正規盤で聴き直してみると、やはりあの頃のプリンスは超絶にカッコいい。“Crystal Ball”“Sexual Suicide”“Cloreen Bacon Skin” など、緊張感あふれるサウンドはすさまじいの一言。
 絶頂期の曲と比べると最近のフヌケな曲は情けない限りで、新作の4枚目もたいしたことはない。しかし、プリンス史上初のアコギの弾き語りスタイルなので、やはりマニアは見逃せないですな。


artist

THE CHEMICAL BROTHERS

title

Brothers Gonna Work It Out

label

Virgin (1998)

 ケミブラのミックスCD第2弾。前回の“LIVE AT THE SOCIAL”がヒップホップ/エレクトロ系だったのに対し、今回はもう少しテクノ寄りの選曲かな? 本人達の曲はもちろん、他人の曲をプレイしても確実にケミブラならではのリズムを感じさせるところがすごいです。
 ま、オリジナル・アルバムと違って、世界中に影響を与える(小室哲哉も「これからはケミブラだ」と言ってたもんな)ような内容ではないので、万人にお薦めできるCDではないかもしれない。


artist

CAPTAIN FUNK

title

Encounter With

label

Sublime (1998)

 「キャプテン・ファンク」- 冗談のようなアーティスト名ですが、タツヤ・オオエという日本人の作品で、日本の代表的テクノ・レーベル「サブライム」からのリリース。この人もケン・イシイのように海外でのリリースで名を挙げた一人です。
 その名の通り、80年代ディスコ&ファンクを現在のテクノの手法で捉え直した作風で、「一本取られた!」という感じ。聴く人によってはゴミのようなサウンドなんでしょうが、私は非常に気に入りました。生き生きとしたエレクトロ・ファンクが心地よい。
 80年代エレクトロが再評価されている1998年を象徴するようなアーティスト。


artist

Talvin Singh

title

OK

label

Island Records (1998)

 盛り上がっているUKエイジアン・シーンの中心人物の一人、タブラ奏者でもあるタルヴィン・シンの初ソロ・アルバム。
 1曲目がクリーヴランド・ワトキンスのボーカルと生ストリングスをフィーチャーした10分にも及ぶ大曲で、「クラブ出身クリエイターが陥りがちな上品なゲージュツ」な感じがして不安を覚えましたが、2曲目からは高速ブレイク・ビーツとタブラが絡み合い、いい感じになってくる。
 これを聴いて思ったのは、「ドラムンベースは手段であって目的ではない」ということ。タルヴィン・シンがミックスする様々な音楽の要素を結びつける触媒として、ドラムンベースのリズムが有機的に作用している。サウンドの底辺がドラムンベースである必然が確実に感じられるのです。UKエイジアン云々より、ドラムンベースのネクスト・レベルを感じさせてくれます。
 坂本龍一も参加していますが、どこで弾いているか全く不明(笑)です。


artist

CAETANO VELOSO

title

UN CABALLERO DE FINA ESTANPA

label

PolyGram Video (1995)

 これはライブ・ビデオなんですが、あまりにも素晴らしいので紹介します。
 カエターノ・ヴェローゾの「粋な男」ライブを収録したもので、オーケストラをバックに歌うカエターノの姿は、まるで映画を見ているかのような美しさ。50過ぎとは思えないその姿は、現代の奇跡ですな。カエターノの「いい男ぶり」にはタイタニックのディカプリオもかなわない(多分)。
 オーケストラを使っても、保守的なサウンドにはならないところがカエターノの凄さ。伝統と革新が同居するその音楽は本当に素晴らしい。デビューして30年も経つのに、最新作こそが最高傑作といえるような作品を次々と送り出す才能はまさに奇跡としか言いようがありません。


artist

VA

title

tropicalia 30 anos

label

NATASHA RECORDS (1998)

 60年代後半のブラジルで起こった反体制的なムーブメント、トロピカリズモ。音楽のみならず、映画や文学も含めての動きだったのですが、中心人物だったのが前述のカエターノ・ヴェローゾ。このCDはそのトピカリズモの30周年を記念したオムニバスです。カエターノ、ジルベルト・ジル、ガル・コスタといった当時のトロピカリスタ達と共に、その子供の世代と言えるカルリーニョス・ブラウンやダニエラ・メルクリのような最近の人気アーティストがトロピカリズモの代表曲をカバーするという豪華な企画。
 演奏はいかにも最近のMPBという感じですが、やはり曲のテイストがひと味違う。歴史的な知識がなくても十分楽しめます。


artist

TOM ZE

title

FABRICTION DEFECT

label

LUAKABOP (1998)

 このトン・ゼーという人もトロピカリズモの代表的な人物の一人ですが、カエターノやジルベルト・ジルに比べると知名度はかなり落ちます。しかし、このアルバムは非常に面白い。P.Funk ばりのサイケなジャケット通りのゴッタ煮なサウンドと、本人のヨレヨレの歌がなんとも言えない味を出しています。レニーニのサウンドが好きな人はきっとハマるでしょう。
 ちなみにLUAKABOP はデビッド・バーンのレーベル。私はあまりバーンの中南米指向は信頼していなかったのですが、見直しました。


artist

Orlando Morais

title

Agora

label

SOMLIBRE (199?)

 謎のブラジル人シンガー、オルランド・モライス。友人から「いいらしい」という噂を聞いて買ってみたのですが、これはハズした。店頭でラテン美男子系なジャケットを見てちょっと不安になったのですが、残念ながら不安的中。例えるなら「パット・メセニー・グループをバックにしたフリオ・イグレシアス(なんだそれ?)」
 カエターノとマリア・ベターニャがゲスト参加し、ドラムにマヌ・カッチェ起用と結構豪華な内容なんですが、どうにも演奏がフュージョン臭くて私は苦手です。


artist

DNA

title

Last Live at GBGB

label

AVANT (1993)

 アート・リンゼイ好きなら必ず知っている伝説のバンド、DNA。名作オムニバス“No New York”に収録されている4曲しか今まで聴いたことはなかったのですが、まさかライブがCD化されていたとは! しかも日本盤。渋谷タワーレコードで発見した時はかなり驚きました。
 82年6月25日のニューヨークでの解散ライブなので、時代的にはアートがラウンジ・リザーズ参加&脱退後になります。78年の“No New York”の頃はアート(G,Vo)、イクエ・モリ(Dr)にオルガンという編成だったのですが、このライブの頃はオルガンに代わってベースが参加しています。ベースが割としっかりしたラインを弾いているので、一見まともなバンドのように聞こえますが、アートのノイズ・ギターは絶好調でかなりヤバい。ノイズ系が好きな人には最高の1枚ですが、心臓の弱い人は聞かない方がいいでしょう。
 しかし、AVANTというレーベルはこういうアバンギャルド系を色々リリースしていますが、ジャケットの「いかにもノイズ」という不気味なアートワークはなんとかならないのか?


artist

SEIGEN ONO

title

COMME des GARCONS

label

NeOSITE (1998)

 サウンド&レコーディング・マガジンの読者にはお馴染みの小野誠彦のアルバムですが、これもアート・リンゼイが絡んでいます。元々はコム・デ・ギャルソンのファッションショーのために作られたサウンド・トラックで、88年くらいにリリースされていた音源(95年に小野誠彦のレーベル「サイデラ」から2枚組で再発)のベスト&リミックスの2枚組。
 サイデラ盤の2枚組は1枚がエクスペリメンタル系(アート・リンゼイ、ジョン・ゾーン、ビル・フリーゼル、ハンク・ロバーツなどNYアングラ系多数参加)、もう1枚はクラシカル系とはっきりと傾向が分かれていたのですが、今回のリリースはその2枚からセレクトしたもの。1枚目はベスト盤ですが、NYでグレッグ・カルビによるリマスタリングが施され、オリジナル盤よりも鮮烈な音像で迫ってきます。2枚目は小野誠彦とアート・リンゼイによるリミックス集で、こちらもかなり怪しい音響作品となっています。
 アート・リンゼイ好きにはマスト・アイテムといえますし、音響系入門編としてもお薦めできる好盤です。一応メジャー・リリースらしいので、入手し易いはず。


artist

SQUAREPUSHER

title

MUSIC IS ROTTED ONE NOTE

label

WARP (1995)

 巷では賛否両論のスクエアプッシャーの新作。私は「否」ですな。
 あのトレードマークだった変態ブレイクビーツ&超絶フレットレス・ベースのスタイルを捨て、全てのパートを自分で演奏して70年代のエレクトリック・マイルス風の作品を作ったわけですが、これは失敗なんじゃないの? 
 リズムの感覚には確実にブレイクビーツ以降の発想が感じられるので、70年代フュージョンそのままというわけではないのですが、いまさらこんなの聴かされてもなぁ?という感じ。従来のスタイルをきっぱり捨て去るチャレンジ精神は大したものですが、クラブ方面からもジャズ方面からも評価されずに終わるような気がする。


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