ディスク・レビュー 98年12月


artist

THEE MICHELLE GUN ELEPHANT

title

GEAR BLUES

label

triad (1998)

 タイトルだけでもカッコいいミッシェル・ガン・エレファントの新譜。ついに日本のロックバンドもここまで来たか!という爆走サウンドで、歪みまくりのエンジニアリングも壮絶。グレイやルナシーには及ばなくても、これがしっかりと売れているということは希望がもてる事実です。
 全曲同じようなノリなのが弱点ですが、男気あふれる演奏は最高です。買うべし。


artist

VA

title

FUJI ROCK FESTIVAL 98 in TOKYO LIVE

label

Polydor (1998)

 夏のフジ・ロックのライブ2枚組ですが、全体に音がショボい。当初からリリースを予定して録音していたのかは分かりませんが、PAからの2ミックスをそのまま聴かされている感じで、残念ながら「あの最高のライブを再現」とはなっていません。
 しかし、PRIMAL SCREAM とASIAN DUB FOUNDATION はエイドリアン・シャーウッドがCD用のミックスを手掛けていて、劇的な生ダブ・トラックとなっていて迫力満点です。エイドリアンがライブ・ミックスを行ったAUDIO ACTIVE もいい音を出しています。結局は「エイドリアン・シャーウッド万歳!」というCDになってしまったような気がするんですが(笑)。


artist

CAETANO VELOSO

title

prenda minha

label

PolyGram (1998)

 傑作“livro”のリリース後に行われたツアーのライブ盤。これがまた大傑作というのだから、カエターノの才能は恐ろしい。カエターノの近作ではお馴染みのジャキス・モレレンバウムのチェロ、ホーン・セクション、バトゥカーダ(サンバのリズム隊)、通常のバンドという編成で、“livro”の音世界をさらに深化させた演奏を聴かせる。是非ビデオの発売も期待したいところです。
 カエターノも基本的には「大衆音楽」の世界の人ですが、その音楽はあまりにも美しく、神々しくすら感じられます。これを聴かずには98年は終わりません。


artist

CARLINHOS BROWN

title

OMELETE MAN

label

EMI (1998)

 おそらくカエターノの跡を継ぐ存在になるだろうカルリーニョス・ブラウンの新作で、なんとプロデュースはマリーザ・モンチ。
 レコーディングはブラジルとアメリカでPro-Tools を使ったらしい。そのせいかどうか知らないが、全体的に英米のポップスと大差ない仕上がりになっていて、今イチ面白くない。あまり魅力的とは言えないカルリーニョス本人のボーカルを全面に押し出しているのも原因の一つかな。やはり彼はサウンド全体のプロデュースで本領を発揮するタイプなのでしょう。


artist

ASTOR PIAZZOLLA

title

THE ROUGH DANCER AND THE CYCLICAL NIGHT

label

american clave (1987)

 “Tango : Zero Hour”同様、キップ・ハンラハンのプロデュース。元々は劇伴用の音楽として制作されたものらしく、非常にドラマチックな楽曲が揃っています。
 ウォン・カーウェイ監督の映画「ブエノスアイレス」で使われたピアソラの曲が収録されているのがこのアルバムです。ちなみに「ブエノスアイレス」は、アルゼンチンを舞台にしたアジア系ゲイによる愛の物語(?)という映画ですが、音楽の使い方が素晴らしい。サントラにはカエターノ、ピアソラ、フランク・ザッパの曲が同居していて、不思議な統一感を醸し出しています。


artist

VA

title

american clave anthology

label

american clave (1993)

 ピアソラ絡みで最近私が関心を寄せているレーベル「american clave」とプロデューサー「キップ・ハンラハン」。タイミング良くamerican clave の作品が日本発売されることになり、これは2枚組の編集盤。もちろんピアソラも収録。
 私の注目はやはり、アート・リンゼイの伝説のバンド「DNA」唯一のアルバムから1曲収録されていることですね。なんと、あのアルバム(私は未聴だが)はamerican clave からリリースされていたのですよ。キップ・ハンラハンの目の確かさが分かります。今回の日本発売の予定には「DNA」が入っていないのが残念。
 ともかく、このレーベルのジャンル分け不能なサウンドには驚かされます。ジャズ系、ラテン系、ノイズ系、ファンク系のミュージシャンを巧みに組み合わせるキップ・ハンラハンは、凡人とは別の世界を見ていると言っていいでしょう。ニューヨークの雑食プロデューサーというと、ビル・ラズウェルを連想してしまいますが、キップが関わった作品のクオリティは、音楽の表層だけを汲み取るようなビル・ラズウェルのアプローチとは全く異なります。聴いてみる価値はありますよ。


artist

KIP HANRAHAN

title

coup de tete

label

american clave (1981)

 こちらはキップ・ハンラハンのソロ・デビュー作。アート・リンゼイ、アントン・フィアといったアンダーグラウンド系に、カーラ・ブレイのようなジャズ・ミュージシャンとラテン・パーカッションを多数加えたラインナップでの録音。リズムの基本はラテンにある(レーベル名が「クラーヴェ」だもんな)ようですが、ジャンル分け不能なamerican clave を象徴するような怪しいサウンドです。


artist

John Gavanti

title

An Operetta

label

ATAVISIC (1998)

 これまたアート・リンゼイ参加盤の再発。オリジナル・リリースがいつだったかは不明なんですが、録音は1980年のニューヨークです。メンバーはSummer Crane,Don Burg,Mark Cunningham,Ikue Mori,Arto Lindsay,Duncan Lindsay(アートの弟!)という1978年のあの“No New York”人脈。
 参加メンバーから想像できるとおり、内容はまさにアバンギャルド。一応John Gavanti という架空の人物が世界を旅するというストーリーがあるようで、パーカッションとホーンによる不協和音をバックにJohn Gavanti がダミ声で語るという理解不能なサウンド(笑)。アート・リンゼイはパーカッション担当です。
 ちなみに、似たようなメンバーで「Don King」というバンドもありまして、これも同じATAVISIC というカナダのレーベルから再発されています。一体どういうレーベルなんだ!?


artist

SPEED

title

Moment

label

TOY'S FACTORY (1998)

 これまでの全シングルを収録したベスト盤。これをお買い得とみるか、商売上手とみるかは、その人のSPEED度による(笑)。
 一応“White Love”のクリスマス・バージョンが売りらしいが、あまりいいリミックスではない。俺ならリズム抜きで完全にバラードとしてミックスするけどねぇ。ま、2月に出るリミックス・アルバムでお手並み拝見というところですな。


artist

山下達郎

title

ADD SOME MUSIC TO YOUR DAY

label

SURFIN' RABBIT (1972)

 達郎が19才の時に自主制作したビーチボーイズ中心のカバーアルバム。ファンクラブ限定で販売されているものを、コンサート会場でゲット。
 20年以上前の録音ですが、やはり達郎は10代の頃から「達郎」だったんだなぁ。今では想像もつかないような貧弱な機材で録られた作品ですが、これ以上の作品を作れるアマチュアが果たして現在どれだけいるだろうか? テクノロジー以前に、音楽への情熱という点で完敗です。


artist

山下達郎

title

CM全集 Vol.1 Second Edition

label

Wild Honey (1996)

 これもファンクラブ限定もの。84年にレコード化されたものにさらに手を加えてのCD化です。
 確かに達郎の曲はCMに色々使われているというイメージがありますが、それだけでなく、CM用の書き下ろし(というか、商品名バリバリのやつ)もいっぱいあるんですね。悶絶なのは75年の「いちじく浣腸」でしょう。あの達郎が「浣腸は、いちじく!」と歌うのです(笑)。「ポップスの職人」としての地位を確立した今の姿からは想像できません。本人も「一生の不覚」とライナーで書いています。


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